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2017年11月:創刊号

秋吉智博さんの柿

福岡県朝倉市杷木志波(はきしわ)の政所(まんどころ)地区 麻氏良山(までらやま)の麓、南向きの斜面には、たわわに実った柿畑が広がっている。 「ここの景色最高でしょう!この景色を残したいんですよね」 約1万3000坪にもなる広大な柿畑を眺めながら秋吉智博さん(37歳)は素敵な笑顔で語ってくれた。

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2018年1月:2号

林誠吾さんの梨

「ひたすら石を拾っていた記憶しかないんです。大人の顔くらいある大きな石から、手掴みできる小さな石まで、ゴロゴロ出てきましたねー」。 林誠吾さん(40歳)は優しい笑顔で話し始めた。 今から34年前、誠吾さんが小学校1年生だった昭和58年、林農園は浮羽町(現うきは市)の土地の開墾に着手した。

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2018年3月:3号

久保田勝揮さんのブラッドオレンジ

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

「主人が喋ってくれるか心配なんです」。 遡ること昨年の6月25日。私は初めての能古島上陸で少し緊張していた。渡船場まで迎えに来てくれた久保田夕夏(ゆうか)さんの車に乗り込み、一路、久保田農園を目指す。潮の香りのする海岸線の道路を抜け、なだらかな坂道を島の北側に向かって登る。

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2018年5月:4号

うきはの山茶の有機新茶

そこは、まさに「天空の茶園」であった。 耳納連山奥深い福岡県うきは市鹿狩(かがり)地区。地名から察するに以前は鹿の狩場になっていたのか、人家もまばらな標高400︎メートルの深い山あいに突如としてそれは現れた。元々棚田であったところを少しずつ茶園に変えていった為、茶園の多くが急勾配の段々畑。

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2018年7月:5号

カネダイの味噌と松末のみなさんが作った蕎麦

ネダイの味噌と
松末のみなさんが作った蕎麦

その日、正午前から降り出した雨は徐々に強まり、午後1時過ぎには土砂降りとなっていた。当時妊娠8ヶ月の井上桂子さんは、以前から楽しみにしていた先生に会うべく、自らが運転する四輪駆動車で山を降り、東峰村から福岡市内へと向かおうとしていた。

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2018年9月:6号

赤崎和徳さんの赤崎牛

ネダイの味噌と
松末のみなさんが作った蕎麦

福岡県嘉麻(かま)市。2006年平成の大合併の折、旧山田市、稲築町、碓井町、嘉穂町の4つの自治体が合併してできた人口約3万7千人の筑豊の町で、福岡県のほぼ中心部にある。明治から昭和初期にかけ、隣接する飯塚市、田川市等と共に炭鉱の町として大いに繁栄した。しかし昭和30年頃、石炭から石油へのエネルギー革命が起こり、石炭需要が激減。採炭事業は衰退し、坑夫数、人口ともに減少し始めた。特に、炭鉱都市であった旧山田市では採炭事業衰退の影響が大きく、人口はピーク時の4分の1にまで減少した。その旧山田市の熊ヶ畑地区の山裾に赤崎牧場はある。今回はこの熊ヶ畑から現れた畜産業界の変革者の物語である。

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2018年11月:7号

ゆうきひろきさんの新米

日本人としてのアイデンティティーを感じる風景は「春の桜か秋の稲穂」と言ったら言い過ぎだろうか。しかし、毎年この景色を眺めるに、それほど言い過ぎでもないのでは?と感じるのは私だけではないはず。

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2019年1月:8号

宇佐美商店のぬか炊き

新幹線のぞみ号も停車する北九州市小倉駅。言わずと知れた、福岡市に次ぐ福岡県第2の都市、北九州市の玄関口である。モノレールのターミナル駅でもある小倉駅の周囲は、オフィスビルが集積すると共に魚町などの歓楽街が発展し、紫川の西側にある小倉城跡地周辺には市役所などの官公庁が立ち並ぶ。

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2019年3月:9号

あつひろ農園のいちご「みつのか」

日本中がロンドンオリンピックに沸いた2012年の夏、平光加(たいらみつか)さん(48歳)は、いちご色の愛車を走らせ実家のある筑後市に向かっていた。この年の夏は連日連夜の熱帯夜。

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2019年5月:10号

古賀哲也さんの「ばら干し海苔」

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

満月の明かりが煌々と川面を照らしている。夜明け前の大川市大川漁港では、出航を今か今かと待ちわびている十数隻の漁船のエンジン音が鳴り響いている。微かに潮の香りが漂う中、防寒対策を施し、暗くても目立つような色とりどりの鮮やかなカッパに身を包んだ海の男たちが、出航の準備に余念無く勤しんでいた。

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2019年7月:11号

遠藤 淳さんの「川茸」

「おー!川茸採っとーやん!」。 近所の小学生らしき少年達が、黄金川に架かる小さな橋の欄干から身を乗り出し、大声をあげている。「遠藤さん、こんにちは!」。『川茸屋さん』、『川茸のおじさん』、『遠藤さん』など、地元の子供達から親しみを込めてそう呼ばれているのは遠藤金川堂の十七代目当主、遠藤淳さん(50歳)である。

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2019年9月:12号

平川秀一さんの「塩」

もうもうと湧き上がる湯気、滴る汗、パチッパチッと燃え上がる薪の音。鉄釜の中の濃縮された海水はブクブクと音を立てながら琥珀色に煮詰まっている。鉄釜に向かって、ゆっくりゆっくり丁寧に琥珀色を撹拌するその姿は、何人をも寄せ付けない近寄り難いオーラを感じる。1リットルの海水からわずか1グラムほどしか採れない塩。

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2019年11月:13号

宗像市 川上農園の「みかん」

ネダイの味噌と
松末のみなさんが作った蕎麦

そこには懐かしい光景があった。 果物屋のせがれとして生まれ育った私の実家の倉庫には、毎年11月になるとオレンジ色のコンテナに入ったみかんの山が、ところ狭しと積まれていた。

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2020年1月:14号

桂川町 古野農場「合鴨家族」

ジリジリと照りつける太陽と西日本特有のクマゼミの大音量の中、カメラマンと私は、水田のあぜ道で息を殺してシャッターチャンスを狙っていた。合鴨は非常に用心深い。人の姿が見えていればまず寄ってこない。

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2020年3月:15号

糸島市 若松潤哉さんの「オリーブ」

旧約聖書の『創世記』6章〜9章で語られているノアの方舟物語。小学生の頃、児童文学全集なるものを図書館で借り、この本を読みふけった記憶がある。幼い頃から、昭和28年の筑後川大洪水の話を聞かされていた事もあり、洪水が他人事とは思えなかったのは事実だ。

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2020年5月:16号

糸島市 早瀬憲一さん 緑の農園の「卵」

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

ツンツン、ツンツン。明るく開放的な鶏舎に足を踏み入れると、ニワトリ達の意外な行動に私は戸惑った。これまでにも何度か鶏舎に入った経験から、ニワトリ達は我々人間に対し一定の距離を保ち、遠巻きに様子を伺っているものだと思っていた。ところが、この鶏舎のニワトリ達は違うのだ。私を全く警戒していない。

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2020年7月:17号

久留米市 いのうえ農園の無花果(いちじく)

その日は朝からそわそわしていた。 3週間ほど前に一通の講演依頼のメールが届いた。福岡県農林水産部からのそのメールには、『ふくおかエコ農産物認証』を取得している生産者の前で、ふくおか食べる通信の取り組み内容を発表してほしい、と書いてあった。

2020年9月:18号

嘉麻市 赤地正志さんのりんご

山あいにアメフトのグラウンド(らしきもの)が見えた。 昨年の10月、九州りんご村の情報をキャッチした私はグーグルマップでその所在地を調べていた。福岡県嘉麻市馬見。住所を入力するとそのエリアが現れ、難なく九州りんご村が見つかった。位置関係を確認し、当地までの移動ルートなどを調べていたところ、馬見周辺の山あいマップの中から見慣れぬものが視界に入ってきた。

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2020年11月:19号

八女市 平島農園の梅干

ネダイの味噌と
松末のみなさんが作った蕎麦

目、口、鼻、眉。顔中のパーツというパーツが一瞬で真ん中に集合した。表情筋がこれほど素早い動きをしたのは生まれてこの方記憶が無い。唾液が喉の奥からじわりと溢れ出す。「これは、あまりにも酸っぱ過ぎるな…」。初めて『太陽梅(たいようばい)』を食べた時の、私の素直な感想だった。試食用として600グラムほどを購入した事をこの時、既に後悔し始めていた。

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2021年1月:20号

八女市 八女フルーツのアップルキウイ

上下のつなぎ服に身を包み、収穫かごを脇に抱え、その女性たちは枝で覆われた茂みの中に分け入って行った。「川上さん、後を追ってください!」。私はカメラマンの川上氏にその女性たちを追うよう指示した。「えっ、ホントに行くんですか?」。

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2021年3月:21号

添田町 藤川椎茸園の原木椎茸

林道を抜けるとそこは“ほだ場”だった。 もののけ姫で主人公のアシタカがヒロインのサンと遭遇するシシ神の森。木漏れ日が差すそのほだ場は、20数年前にスクリーンで見たシシ神の森を彷彿とさせた。ほだ場とは、原木椎茸(げんぼくしいたけ)を栽培し採取する場所の事で、いわば原木椎茸の畑である。

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2021年5月:22号

みやま市 田中稔久さんの博多うまきび

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

香ばしい香りが鼻腔をくすぐってきた。これは、ニンニク醤油に漬けて揚げた大分中津唐揚げの香りに違いない。朝食を取らない私にとって、お昼時にその香りを嗅ぐのは悪魔のささやきである。胃袋が、本能に従えと私の足に命令する。その香りに誘われるように足を進めると、『九州諸国うまいもん市』というのぼりが見えてきた。

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2021年7月:23号

久留米市城島町 倉重農園さんのマンゴー

『銀座』という響きから我々がイメージするのは、東京都中央区にある日本有数の繁華街である、あの『銀座』である事は疑い無い。元々、銀座とは江戸幕府の銀貨鋳造所の事で、当初は京都や大阪、長崎にもあったが、後に江戸に集約された。明治以降、造幣局の設置に伴い廃止。地名だけが残った。

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2021年9月:24号

筑前町 むぎわらFARMの黒大豆:クロダマル

「目印は黒い煙突のある家です」。林亮輔さんからのメッセージを頼りに、私は約束の場所に向かっていた。その日はあいにくの雨模様。畑作業が困難な事から屋内で会う事になった。『黒い煙突のある家』と聞いて、以前取材した、またいちの塩でおなじみの塩工房風の建物を想像していた。作業場風の比較的古い建物で、大きな煙突から煙がもくもく上がっている、そんな風景を想像していた。

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2021年11月:25号

久留米市 古賀宣彦さんのさざなみどり

ネダイの味噌と
松末のみなさんが作った蕎麦

「さざなみどり、食べてみてください」。 目の前にはきれいに前処理された一羽の丸鶏の姿があった。高級中華料理店で見かける丸のままの北京ダックのようなその丸鶏は、肉厚で張りがあり、素人が見てもその白い鳥肌には艶がある事が見てとれた。刃紋が際立つ短めの包丁を右手に、古賀宣彦さんは手慣れた手つきで丸鶏の解体を始めた。モモの辺りにスーっと包丁を入れる。

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2022年1月:26号

小郡市 森松和彦さんの「ニホンミツバチの蜂蜜」

もし、ミツバチが存在しなければ今の人類の繁栄は無かったかもしれない。 数年前、この言葉を聞いた時、私は全くと言って良いほどピンとこなかった。因果関係がまるで見えなかったからだ。皆さんはピンときただろうか。

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2022年3月:27号

糸島市 藤井眞二さんの「グリーンアスパラガス」

いよいよ春本番。あなたがこれを読み進めている頃、いったいどんな春を迎えているだろうか。「4月から新しい生活が始まります。期待と不安でドキドキです」。「部署が変わって新たに人間関係から作っていかねばなりません。ちょっとストレス感じています」。

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2022年5月:28号

岡垣町 さなえ果樹園の「高倉びわ」

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

私の生まれ育った所は福岡県朝倉郡杷木町(現、朝倉市杷木)と言う。子供の頃、他人に杷木(はき)の字を説明する際に「びわの“わ”に、木曜日のもくです」。という説明をしたところ大抵の場合、キョトンとされた事を覚えている。

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2022年7月:29号

福岡市 樹ファームの「博多リリコイ」

学食の冷蔵ケースには人だかりができていた。 クマゼミの喧しい鳴き声、ジリジリと容赦無くふり注ぐ太陽、青い空には真っ白な入道雲。その日は午前中から30度を超える暑さだった。「今日は・・・アイス食おう」。

2022年9月:30号

北九州市 藤島賢太さんの「関門海峡たこ」

タコ焼き、タコ刺し、タコ唐、酢の物、おでんの具などなど、タコを使った料理は数限りない。しかし、最初の1行に「いやいや、私はそうでもないよ」という声も少なからずあるはず。事実、私の妻は関西出身にも関わらずタコ焼きを好まない。

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2023年1月:31号

田川市ジビエ猪之国の「ジビエ」

人類と狩猟の歴史は長い。我々ホモ・サピエンスは約20万年前にアフリカに現れたとされている。そして5万年前に一部のホモ・サピエンスがアフリカを旅立ち長い年月をかけて世界各地に広がっていった。これを『グレートジャーニー』と呼ぶ。

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2023年9月:32号

玄界島の漁師 宮川友芳さんの「定置網漁」

2023年8月。今年の夏は例年に比べ暑い。「観測史上最も暑い」というフレーズが船内の客室に設置された大型テレビから聞こえてきた。博多湾に面するベイサイドプレイス博多埠頭から出港した、玄界島行きのフェリー「みどり丸」。

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2023年11月:33号

糸島市 北伊醤油の「天然醸造醤油」

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

築100年を超える蔵から醸し出される空気感をどう伝えようか。糸島市にある「北伊醤油」の蔵に初めて立ち入る際、私の頭の中は雑念だらけだった。テレビやインターネットでしか見た事がない古い蔵のイメージを想像しながら、その想像との差分を埋め、どう表現するかで頭はいっぱいになっていた。

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2024年1月:34号

「築上町 福田浩一さんの菊芋」

「菊芋」と聞いて、皆さんはどんな植物をイメージするだろうか。「菊? 芋? どっち?」。 「キクイモ(菊芋):キク科ヒマワリ属の多年草。別名はアメリカイモ、ブタイモ、カライモ(唐芋)、トピナンブール。

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2024年3月:35号

北九州市 合馬清永匡孝さんの「合馬たけのこ」

その光景はどこか懐かしく、それでいてハッと息を呑む光景だった。眼前に広がるそれを前に、私は立ち尽くしていた。優しい木漏れ日がさす穏やかな春の日、青々とした新緑のモウソウチク(孟宗竹)は真っ直ぐと天を目指す。

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2024年5月:36号

隠れフードロス 規格外という個性

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

ある日、目が覚めるとあなたは生まれたばかりの赤ちゃんでした。両親から愛を注がれ、あなたはスクスクと育っていきました。 小学校に入った頃、あなたの周囲は同じような顔立ち、同じような背格好の仲間ばかりで、あなたもその一員でした。

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2024年9月:37号

福岡市早良区内野 山の農園 米澤竜一さんの「新生姜」

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

「今回はショウガか…」と、やや気落ちした読者諸氏も少なくないのではなかろうか。かくいう筆者自身も長い間、地味な食材という印象を拭えなかった。ところが、食材で歴史を遡ることに興味を覚えて以降、我々ホモ・サピエンスの挙動がいかに食に左右されているかを知るに至り、一つ一つの食材に対する興味はより一層深まっていった。歴史の表舞台の出来事が、その裏側では食が引き金になっていたという事例は枚挙にいとまがないのだ。

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2024年11月:38号

糸島市 下登昌臣/阿南文平さんの「糸島れもん」

久保田勝揮さんの
ブラッドオレンジ

「これは、直接連絡しても無視されるな」初めて「糸島れもん」のホームページを見たときの印象だった。あれは確か1年半ほど前、「かじさん、糸島れもんって知ってる?」と読者から聞かれた時だった。「糸島れもん」という響きに、にわかに心が踊ったのを覚えている。

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2025年1月:39号

篠栗町 ナチュラルファームの 「さつまいも」

この仕事を始めて、いつの間にか8年目に差し掛かっていた。これまで数えきれないほどの農作業現場を見てきたが、2台のトラクターが並んで畑を走る光景を目にしたのは初めてだった。そのランデブーにはどこか新鮮さと微笑ましさがあり、気づけばカメラを手に取りシャッターを切っていた。

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