2024年3月25日 0036:「2ヶ月に1度のプチ非日常」
今回、ほぼ掘り出した状態のままの「合馬たけのこ」を読者の皆様へお届けしました。生産者の清永さん曰く、「この状態でお届けするのが一番うまいんです」。スーパーなどで販売されているタケノコは水煮され、さらに綺麗にカットされ、いつでも使える真空パック状態で販売されているものが多いようです。売り手の涙ぐましい努力が垣間見られます。使う側にとっても時短でき、なおかつ手軽に調理できるといったメリットがあります。
そんな中、今回の「合馬たけのこ」は、届いたらすぐに、タケノコの外皮をはぎ、切れ目を入れ、ゆでてアクを抜き、皮をむいて、ようやく調理できる状態になります。この間約2〜3時間はかかります。効率重視の世の中において、なんとも手間のかかる作業です。私が会社員時代、1分1秒を惜しんで仕事に邁進していた頃であれば、「合馬たけのこ」を届けられるのはありがた迷惑と言っても過言ではなかったでしょう。
さて、みなさんは「タイム イズ マネー」という言葉を聞いたことはありますか。18世紀の半ばにアメリカの政治家ベンジャミン・フランクリンが言った言葉として紹介されています。この言葉、日本では「時は金なり」と訳され、比較的ポジティブな言葉として解釈されているように感じます。時間は有限なものであり万民に平等に与えられたもの。お金同様の貴重な時間を無駄にすることなく有意義に使うべし、という怠惰を戒める言葉として広まっている印象を受けます。
僕はこの考え方が嫌いではありません。むしろ歳を重ねるごとに時間の有限性と希少性を体感しています。この時間をなんに使おうか、日々考えながら行動しています。ただ、会社員時代の僕と今の僕とでは、使った時間に対して得られるものの基準が大きく変わりました。以前は生産性や効率といった基準が第一で、今で言う「タイパ」重視でした。
翻って今は、「充足感」を得られるかどうかを大切にしています。ここでいう「充足感」とは、他者からは一見無駄に見えるかもしれないが、本人が好奇心ややりがいを感じられ没頭できること、だと考えています。
例えば、コーヒーを飲む際、ドリップバッグを使ったコーヒーであれば、飲むまでにかかる時間はほんの数分です。これを日によっては生豆から焙煎します。飲むまでには1時間はかかるでしょう。しかし、この時間は僕にとって充足感溢れる時間なのです。なぜなら、毎回新しい発見があるのです。この新しい発見こそが僕にとっては充足感を満たすとても大切な要素だと気づきました。
「合馬たけのこ」を2〜3時間かけて下処理することが充足感につながるかどうかはわかりません。ただ、初めての体験をする時、脳は最も活性化するそうです。ある読者さんがこういうことを言ってくださいました。「ふくおか食べる通信は2ヶ月に1度のプチ非日常なんです」。1年前、僕にとってタケノコをさばくのは非日常体験でした。しかし、その体験があったからこそ、タケノコの本当のおいしさを知ることができました。