今回は、ふたたび同じ生産者さんを特集するという、少し特別な号になりました。
なぜ、再度秋吉さんの物語を紐解こうと思ったのか、その背景は特集記事に綴っていますが、いざ特集が決まってみると、「さて、今度は何を描こうか」と頭を悩ませる時間が始まりました。
というのも、2017年までの秋吉さんの歩みは、すでに一度しっかりと書き記しているからです。今回は、その続きをどう紡ぐか。つまり、2018年から2025年までの“上書きされた物語”に焦点をあてる必要がありました。そしてこの“上書き”を「思い出す」という作業が、思いのほか新鮮な時間でもありました。
僕たちの取材は、1年という時間をかけてじっくり進めていきます。最初に訪ねるのは、その食材が旬を迎えたころ。その場で食材を食し、その想いに心を奪われ、特集の依頼をする。そこから1年かけて何度も通い、語り合い、ときに畑で黙って実りを見守るような時間を過ごします。
世の中には、1〜2日程度の取材で仕上がる1万字の記事もあります。でも、僕たちがやりたいのは、それでは届かないところにある“にじむような言葉”をすくい上げること。だからこそ、時間をかける意味があるのです。
農業の時間は驚くほどゆっくりと進みます。 種をまき、手をかけ、季節を観察し、結果が見えるのは、多くの場合年に一度。 新しい挑戦をしても、うまくいったかどうかを知るのは、また1年後なのです。
一方、多くの人が身を置くビジネスの世界では、そんな悠長な時間感覚では到底立ち行きません。 競争相手に一歩でも先んじるために、より速く、より正確に、今この瞬間の判断と成果が求められます。
そして、「早く、正しく、結果を出す」ことが、いつの間にか人生やキャリアの価値基準としても深く染みついている、そんな感覚に、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。しかも、生成AIや量子コンピュータといった技術革新は、私たちの時間軸をさらに加速させようとしています。 これからの社会では、何ごとも「一秒でも早く」が前提になるかもしれません。
では、そんな超高速な世界の中で、私たちはどんなリズムで物事を判断し、選択していけばよいのでしょうか。
ひとつのヒントは、「二つの時間軸を持つこと」かもしれません。 瞬時に決断し、結果を出すべきこともあれば、時間をかけて、丁寧に育てていくべきこともある。その両方のリズムを体の中に宿すには、それぞれの時間の流れを、実際に“体感する”必要があるのではないでしょうか。
だからこそ、一次産業と接点を持つこと、たとえば、農業の現場にふれてみることは、私たちの時間感覚を豊かにし、もうひとつの視点を授けてくれる貴重な体験となるのです。
ただ早く進むだけでなく、じっくりと育てる。 そんな“時間軸の二刀流”を身につけることが、これからの時代をしなやかに生きる力になると、私は思うのですの。





